自由の女神、トップ・オブ・ザ・ロック、セントラルパーク、美術館、劇場、ジャズクラブ、、、数えればキリがありません。
私は「イエローキャブ」を挙げます。
写真↑=7月21日午後5時34分、Canal & Laight Sts.で、RICOH Caplio GX100。↓=7月21日午後4時37分、Washington & Perry Sts.で、Leica R9+DIGITAL-MODUL-R(19mm)。屋根の後端に黒い円盤状のGPS(全地球測位システム)用アンテナが取り付けられています。これを巡る騒ぎは後で詳しく説明します。
車種は、いずれも後から詳しくご説明する「イエローキャブの中のイエローキャブ」、フォード社製の「クラウン・ビクトリア」です。
イエローキャブは日本ではNYCの公認タクシーの別名として知られています。正式名称は「N.Y.C. TAXI」。
私がイエローキャブの色にこだわる理由はただ一つ。NYCの街並みで、それ以外の色が考え付かないからです。
イエローキャブはNYCの風景の一部です。タクシーの色が黄色でなかったら、NYCがNYCでなくなってしまうような気がするほど「NYC=イエローキャブ」の図式が焼き付いています。にぎわうソーホーの夜景を記念に残そうとしても目前を疾走するイエローキャブ。目抜き通りでイエローキャブを避けて写真を撮るのは不可能です=7月23日午後8時49分、Broadway & W. Houston St.で、RICOH Caplio GX100。
なぜイエローキャブは黄色なのでしょうか。1900年代初めにNYCをタクシーが走り始めてしばらくは、タクシーは好き勝手な色で、ドライバーの過酷な労働条件や低待遇、行政当局との癒着などが問題になっていました。
1934~45年にNY市長を3期務めたフィオレロ・ラガーディア氏。今はクイーンズ地区にある国際空港に名を残しています。彼は1期目の37年、「メダリオン制度」の導入しました。自由営業だったタクシーに「ライセンス制(許認可制の営業権)」を導入するという試みでした。
60年代になると、市の命令で白タク排除の狙いもあり、車体を黄色に塗ることが義務付けられました。黄色を選んだ理由はごく単純。「利用者の目に付きやすく、事故防止にもつながる」
この営業ライセンスの一つが最近、$60万(6900万円)という高値で取引されたといいます。3年前の倍以上の相場です。将来的な運賃値上げ・利用者増をにらんだ投機的な側面もあるのでしょうか。この夏に低所得者向け(サブプライム)住宅ローン焦げ付きに端を発した金融先行き不透明感からニューヨーク証券取引所(NYSE)の株価が暴落。欧州市場に飛び火し、一時は世界市場の混乱を招きました。それもここに来て一段落。やはりアメリカの好景気は底堅いと楽観しても良いのでしょうか。
写真は7月19日午後4時12分、W.49th St.で、LEICA R9+DIGITAL-MODUL-R(80mm)。今年でこのタイプは製造中止というのが残念ですが、これぞ「THE YELLOW CAB」ではないでしょうか。イエローキャブの多くはこの車種です。フォード社製の「クラウン・ビクトリア」。排気量は05年式で排気量4.6l、V8のSOHCエンジンを積むフルサイズセダンです。ベーシックモデルは$20,000(230万円)~といいますから、日本車に比べると値ごろ感があります。同じ車種はニューヨーク市警(NYPD)のパトカーも採用しています(のちの連載でも紹介します)。ただ、こちらのモデルはエンジンやシャシー、ブレーキを大幅に強化した専用グレード。その名も「P71ポリスインターセプター」。カーチェイスでは負け知らずの?つわものです。
実はこの「P71ポリスインターセプター」、日本と違って耐用走行距離(10万km前後)を迎えると競売で払い下げられます。価格は伝え聞くところでは$5000(57万5千円)ほどから。マニア向けに買いあさる専門販売業者もいるとか。安いし丈夫なので、イエローキャブも相当数、採用しているそうです。
NYCのイエローキャブの8割がマンハッタン内の乗降で、同じNYCでも、お隣のブロンクス、クイーンズ、ブルックリン、スタッテンアイランドではグンと少なくなります。ただでさえ広いとはいえない、東京・山手線の内側ほどのマンハッタンを中心に約1万3千台のイエローキャブが走っています。
写真=7月21日午後4時40分、トライベッカ地区で、LEICA R9+DIGITAL-MODUL-R(19mm)。
マンハッタンの居住者は約160万人。昼間人口はその数倍に膨れ上がるとされています。世界に名だたる過密都市であり、公共交通機関が地下鉄とバスしかない島内の移動には便利です。バイクや自転車は盗難の恐れから、趣味やトレーニング、メッセンジャーらのもので、一般市民が移動手段に使うことはほとんどありません。
バイクは1000ccを超えるビッグバイク、自転車はマウンテン風バイクがほとんどです。NYCで、実用的な「ママチャリ」やミニバイクをまず見かけないのは、歩道が自転車通行禁止だけでなく、こうした理由があるからです。
約4万4千人いるイエローキャブ・ドライバーの80%以上は国外出身者。バングラデシュ、パキスタン、インド人をはじめとした移民が圧倒的です。日本でいう「2種免許」とごく簡単な英会話能力、約20時間の地理の授業を受ければ資格は取れます。日収が手取りで$20(2300円)台というアンケート結果もかつてありましたが、丸々懐に入るチップを考えれば、言われているほど低収入ではないのではないかと思います。それでも多重債務者が多く、生活は決してラクではないといいます。
アメリカは移民の国。手軽に職を得られる場としてのドライバー稼業は、移民の受け皿として大きく貢献していることだけは間違いありません。白人ニューヨーカーがイエローキャブのドライバーを志望しないのは、やはり「3K職場」という認識があるのでしょうか。
移民が多いことから英語が苦手なドライバーが少なくないのも事実です。わざと遠回りをしたり、過剰なチップを要求する質の悪いドライバーもいないとは言いません。ただ、NYCはおおむね碁盤の目に近い都市計画がされていますので、東西に交わるストリートと南北に走る目抜き通り(アベニュー)との名前を指示して地図とにらめっこしていれば、目的地近くまで行くのは難しくありません。交差点にはたいてい通りの名を書いた標識があります。
写真=7月21日午後1時9分、Bowery & Bleecker St.で、RICOH Caplio GX100。
運転は決して紳士的ではありません。平日昼間のミッドタウンやダウンタウンは猛スピードを出せるほど道が空いていないのが幸いですが、ジグザグ運転や冷や汗の流れるような強引な割り込みはお手のモノ。「レーサーに転職した方がいいんじゃないの?」と思うほど「見事」なテクニックを披露するドライバーもいます。
運賃の仕組みは、最初の約300mの初乗りが$2.50(290円)。あとは約300mごとに¢40(50円)を加算。渋滞でノロノロ運転になったり停車してしまうと、2分ごとに¢40がさらに加算されます。日曜と深夜(午後8時~午前6時)は¢50(60円)増し。日本と違うのは平日の午後4~8時までに「ラッシュ加算」が$1(115円)あること。さらに、有料のトンネルなどの通行料を足した合計金額におおまか15%分のチップ(最低でも$1)を上乗せて支払う習慣があります。
犬をスナップしても背後のビルの窓にはイエローキャブの影。NYCではイエローキャブを避けて街頭写真を撮るのが難しいほどです=7月21日午後5時5分、トライベッカ地区で、LEICA R9+DIGITAL-MODUL-R(100mm Macro)。
仮に大阪・キタのJR大阪駅からミナミの南海なんば駅までタクシーに乗ったとしましょう。御堂筋を下る4.5kmの1本道です。初乗り660円の中型車で、ざっと1500円かかります。これがフルサイズのイエローキャブではチップ込みでも1100円といったところでしょうか、、、地下鉄($2=230円)よりは割高ですが、物価が世界トップクラスのNYCでもイエローキャブは「安い」と評判です。
大阪などで一部導入されている遠距離割引(5000円以上5割引きなど)はありません。ニューヨーカーは$10(1150円)以内のチョイ乗りが圧倒的に多く、ドア・ツー・ドアの近距離では便利で手ごろな交通機関と言えるでしょう。
利用度が高い分、帰宅ラッシュの中心街でイエローキャブを捕まえるのは至難の業です。車はどんどん来るのですが空車はまずなし。オフィスから吐き出された乗客が沿線で思い思いに手を上げています。当然、「上流」で手を上げた客に優先権あり。客が降りそうな車に目をつけ、駆け寄るのがコツとか、、、。どういうわけか、この「書き入れ時」は多くの運転手の休憩時間に当たるらしく、道端に駐車して「OFF DUTY(乗れません)」の表示灯を点けて休んでいる運転手が多いのにも首をひねってしまいます。
写真→右の車は休憩中ではなく修理工場に立ち寄ったところです=7月18日午前11時36分、Bowery & Great Jones St.で、LEICA R9+DIGITAL-MODUL-R(19mm)。
日本人がよく利用するJFK空港⇔マンハッタン島内はメーター制ではありません。運賃は一律$45。イーストリバーをくぐる有料道路(トンネル)通行料金を足しても$55~60(6330~6900円=チップ込み)払えばOKです。
市バスまたはエアトレインから地下鉄に乗り継ぐ($4~7=約460~800円)などの、格段に安くて渋滞と無縁の交通手段もありますが、私はいつもイエローキャブを利用します。特に公定運賃になってからは安心です。JFK空港の出口には白タクの客引きがたくさんいます。完全無視してください。空港での営業を認可されたイエローキャブが並ぶ正規の乗り場に直行しましょう。
ドライバーは乗り場に乗り入れる「許可証」を持っています。誘導係がボールペンで穴を開けてチェックを入れ、乗客に渡してくれます=7月17日午後4時50分、JFK空港で、RICOH Caplio GX100。これがライセンス(メダリオン)ナンバーも入った正規のイエローキャブである証でありトラブルが起きたときにも役立ちます。
NYCの道路渋滞は東京・大阪の比ではありませんが、料金の安さゆえ利用度は極めて高く、1年間に2億4000万回利用され、水揚げの合計は$15億(1725億円)を超えるといわれています。単純計算で1回の運賃は$6.25(720円)になります。
←のようなタッチパネルを前部座席背もたれ裏側の真ん中、乗客から見える位置に取り付けたイエローキャブが急増しています。「e Taxi」とも呼ばれます=7月20日午後6時55分、W.14th St.で、RICOH Caplio GX100。屋根に付けたアンテナで衛星からの信号を受信するGPSシステム搭載車です。こんな便利なハイテク機械が問題のタネになろうとは、、、
以下は8月24日のAFP電の引用です。
ニューヨーク市当局による全タクシーへのGPS導入計画に反対しているニューヨーク・タクシー労働者同盟は23日、市当局が計画を放棄しない場合には9月5日から48時間のストライキを実施すると発表した。
同同盟は、市内で営業するタクシー運転手2万6000人のうち約8400人が加盟する団体。 同盟のBhairavi Desai事務局長はAFPに対し、「ストライキは9月5日の午前5時に開始の予定だが、当方の要求を市当局が事前に受け入れた場合には、当然ながらストは回避される」と語った。
市の計画では10月1日までに、市内の全タクシーにGPSを導入するとしているが、運転手らはこれは人権侵害にあたると主張。計画を主導しているとして、同市のタクシー・リムジン委員会(TLC)を非難している。 ニューヨーク・タクシー労働者同盟によると、同システムの導入には1台当たり5000ドル(約57万5千円)以上の費用がかかる上、システムを介してTLCに現在地、1日の乗客数と運賃が報告される。
GPS導入に反対する理由についてDesai氏は、「走行状況をGPSで常時監視されるなどまっぴら」と説明。市内の全タクシー運転手にストへの参加を呼びかけている。 また、前月のAFPとのインタビューでもDesai氏は、「運転手らは非番の日に私用でタクシーを使用することもある。日曜日に家族とどこへ行ったかを、いちいちTLCに知らせる必要などない。GPS導入はプライバシーの侵害だ」と憤りを示している。
導入予定のGPSシステムには乗客用のモニターもついており、これにより乗客は銀行カードで料金支払いをできるほか、走行ルートの確認やニュース、天気予報のチェックもできる。 ストが実施された場合、日常的にタクシーを利用する乗客ら約80万人が影響をうけ、ニューヨーク市内が混乱に陥るのは必至だ。 同同盟の話では、ニューヨークでの大規模なタクシーストは1998年以来となる。(c)AFP
乗客にとっては便利な機能を備えたアクセサリーですが、どうやら購入費用の負担とプライバシーを盾にドライバーらは猛反対。9年ぶりの大規模ストが決行されたか否か、結論が出たかどうか、NYCの混乱ぶりがいかほどのものであったかは、ニュースが入りましたら報告します。
9月5日夕(EDT)にNYCの知人に電話したところ、混乱は最小限に収まったそうです。結局はGPSシステムのスイッチを切ってしまったらおしまい、とのこと。
さらに9月7日付朝日新聞朝刊は――
米ニューヨーク市でタクシー運転手の団体が5日早朝から48時間ストライキに突入した。市当局がタクシーに全地球測位システム(GPS)設置を義務づけたことが理由。ストは一部に限られ初日は大きな混乱はなかったが、街では名物の「イエローキャブ」の姿がめっきり減っている。運転手らの「ニューヨークタクシー労働者同盟」が計画。GPSとクレジットカード読み取り機などが付いたハイテク装置が来年から義務づけられ、「高額な上、車の位置が把握されて運転手のプライバシーが侵害される」と主張している。 同市のタクシーは約1万3千台。主催者は運転手の9割が参加したとするが、実際の数は不明だ。イエローキャブを取り巻く変化はまだあります。「クラウン・ビクトリア」の後継車として、このようなSUV車が目だって増えてきました。これは人も荷物もたくさん詰めるのでよし、としましょう=7月19日午後6時6分、E.49th St. & 5th Ave.で、RICOH Caplio GX100。
さらにマイケル・ブルームバーグ市長は5年以内にすべてのイエローキャブをハイブリッド車に換えようという方針を打ち出しています。NYCの大気汚染の現状から考えると、大胆な環境地球温暖化対策といえます。しかし、ハイブリッド車はまだ高価です。購入補助金があるとはいえ、わずか5年とは少し準備期間が短すぎるような気がしないでもありません。運賃値上げにつながることは間違いないでしょう。
来年の「タクシー制度100年」を契機に、電気自動車の導入も計画されているとか、、、大いに結構ですが、ここは市長給与を年に$1しか受け取っていない大富豪の市長さんに一肌脱いでいただきましょう! 挙句は「ブルームバーグ空港」をNYC近郊に造りましょうか。
ドライバーQさんはエクアドル出身。NYC在住歴21年です。彼の趣味は外国の紙幣集めとカメラ。「日本のカネを見せてくれ」。走りながら後ろの私に話しかけるので怖くなり、千円札を差し出しました。
しげしげと表裏を「鑑定」、車は走り続けています。「Oh , Beautiful ! 」を連発して「交換しよう」と切り出してきました。当日のレート「$1=125円」に相当する$8で交換しました。
ほかにもカナダの紙幣を見せてくれましたが、彼の言うレートが次の日の新聞で間違いなかったことを確認できました。
NYCでは隣国・カナダの通貨が流れ込んで来ているようです。あと、最近見かけない$1コインが自販機からお釣りで出てきた、なんて話も。
↑Q氏の愛機(友人からの借り物)は今はなきブランド、KONICA MINOLTA製の北米向けの銀塩一眼レフ「MAXXUM3」。望遠ズームレンズ付きです=7月19日午前10時29分、1212 Avenue of the Americasで、RICOH Caplio GX100。
4 件のコメント:
よくリサーチされていますね!ブログにするのがもったいないくらい。
ところでイエローキャブといえば、今日はじめてToyota prius車のイエローキャブを見かけました! たまたまカメラを持っておらず、あの感動を写真でお伝えできなくて残念です。やっぱりカメラは常に手元に持っておくべきですね…。
ニューヨーク直行便さん、abekasuさんですか? おはようございます!
プリウス、私も7月にNYCで見かけました。別に日本では珍しくない車なので、写しませんでした。しまった!
2012年までにはキャブはすべてハイブリッドに切り替え、電気自動車も導入して行くそうですね。
フォードの「クラウン ヴィクトリア」が製造中止になるのも残念ですが、あの形がNYCのキャブですよね、、、
お金持ちのブルームバーグさんも環境対策には勝てないようですね(^^;
書きかけのイエローキャブの項では、あと、GPS設置vs.ドライバーの問題と「e taxi」(タッチパネル)でいろいろ出来る新型キャブの話題を追加するつもりです。
では!
はい。ニューヨーク直行便のabekasuです。
GPS導入問題、NYで今ホットな話題ですよ。5日から48時間にわかってストが実施されるかも~、どうなるんでしょう。ハラハラドキドキ。
abekasuさん、スト決行予定時刻まで、あと9時間半というところでしょうか?
ぜひ顛末をご報告くださいませ。blogに追加させていただきます。(もしかすると、日本のマスコミでも報道されるかもしれませんね(^^;)
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